“愛する”とは?広島蔦屋書店がおすすめする一冊「ある男」

広島の書店員さんがセレクトしたおすすめの本を紹介。

あなたの暮らしをさらに豊かにする一冊をお届けします。

こんにちは。広島T-SITE 広島蔦屋書店で文芸コンシェルジュをしている江藤宏樹です。
とにかく本が好きで、本を読んでいれば幸せという人間です。

今回は、そんな本好きの私がおすすめする、特に女性にこそ読んでみてほしいと思った本です。
人を愛するという気持ちってなんなのか。
愛の本質的な部分を考えてみたくなる一冊をご紹介します。

『ある男』 著:平野啓一郎 出版:文藝春秋

『ある男』のあらすじ

あなたの愛した夫が実は全くの別人だった。
そんなこと想像できるでしょうか。

町の人だれからも慕われていた「いい子」の文房具屋の里枝。里枝は25歳の時に一度結婚をして、二人の息子をもうけました。
しかし、次男は2歳の時に脳腫瘍と診断され、半年後には亡くなってしまいます。そのときの治療を巡って夫と対立した里枝は離婚をし、長男を連れて実家に帰ってきます。

里枝の帰ってきた過疎の町に、谷口大祐がやってきたのはそのころでした。林業をやりたいということで移り住んできて、一年と立たないうちに里枝と結婚したのです。
谷口大祐は非常に寡黙で里枝の他には親しいものもいませんでした。とてもまじめに働いていたのですが、4年もたったころ自分で切り倒した杉の木の下敷きになって亡くなってしまいます。

谷口大祐は里枝に、自分の身の上話をしていましたが、自分の実家とは絶対に関わらないでくれと頼んでいました。それは自分が死んだ後でも、ということだったので、亡くなった後1年が経つ頃まではそれを守っていたのですが、やはりこのままではよくないと思い大祐の兄に連絡をします。

しかし、駆けつけた兄からの言葉に驚愕してしまうのです。

「これは大祐じゃないですよ」

遺影をみた大祐の兄はあきれたような顔でこう言ったのです。

愛する人のことを本当に知っていると言えますか?

人はなにをもってその人らしさを獲得するのか。
その人はなにから構成されているのか。

おそらくだれもが思うのは、生まれ育った環境、両親の影響、周りの人々、友人、つまりその人の過去が今のその人を作っているということでしょう。

人を愛するということは、その人の過去もひっくるめて愛するということなのでしょう。
しかし、その愛した人の過去がすべて嘘であった時、その愛もまた嘘であったのでしょうか。

戸籍を売買し、過去を捨て、別人の過去を引き受けて、別の人生を歩む男たちがいます。彼らはなぜそんなことをするのか。自分の過去を捨てることで、得たかったものはなんだったのか。

そして人はなぜ人を愛するのか。
人のなにを愛しているのか。
過去を捨てることで愛を得ることができるのか。

あなたは愛する人のことを本当に知っていると言えるのでしょうか。

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