蔦屋書店員おすすめ!秋に読みたいSF「わたしたちが光の速さで進めないなら」

こんにちは、広島蔦屋書店の河賀です。

思いっきり楽しんだ!とはいかない今年の夏でしたが、気づけばもう秋ですね。
わたしは季節の中では夏が一番好きですが、季節の変わり目がもっと好きです。

四季があるということは素晴らしいことで、地球に生まれてよかった!なんてしみじみ秋の空を眺めてみたけど、いや待てよ!ほんとうに地球が一番美しいのか、そしてそれは永遠に続くのか、地球よりも素晴らしく美しい惑星は過去現在未来どこにもないなんていえるのでしょうか。

なーんて、そんな知り得ない何かに思いを馳せたい秋の日におすすめの1冊をご紹介します。

作者の優しさが伝わる「わたしたちが光の速さで進めないなら」

「わたしたちが光の速さで進めないなら語」キム・チョヨプ

SF初心者におすすめの一冊

わたしは普段そんなにSFを読むほうではないのですが、今回はSFと決めてました。
なぜなら思いを馳せたかったから(笑)

本書は韓国のSF短編集でわたしでもスラスラ楽しく読めたのでSF初心者の方にもおすすめします。
7つの短編集で構成されていてどれも不思議でおもしろいのですが、その中からお気に入り2つについてお話しします。

私のお気に入りの2話をご紹介

「スペクトラム」は、40年間太陽系の外にある惑星で地球外生命体と暮らした女性生物学者の話です。
寿命が短いその生命体は目で見えるあるものを単位とする言語体系のためにコミュニケーションがとれません。
それでも長い時間共に過ごし微かな感情の動きを感覚で理解していきます。

40年ぶりに地球に帰り着くことになる女性生物学者は大発見といえるその生命体との出会いこそ発表しますが、その惑星についての情報は一切口外しませんでした。
虚言癖と言われようとも。その生命体が目で見えるあるもので女性生物学者について表した一言には胸をつかれます。
エモい!と思ってしまうのはわたしだけではないと思います。
理解可能性は無限です。

「巡礼者たちはなぜ帰らない」は、顔に痣のあるエリート科学者がバイオハッカーとなり、美しく有能で、病気も持たない「新人類」を作り出します。
しかし新人類と非新人類の間にヒエラルキーがうまれ、科学者は非新人類を地球外へと連れ出し差別のない世界を作りだします。
隔離は果たして幸福をうみだすのか。ユートピアとディストピア、マイノリティとマジョリティ、人類にとって幸福とはなにか、正常とはなにかを問われます。

人類において正常という概念自体不適切なのかもしれません。

思いを馳せたくなったら迷わずSFを!

他にも「わたしたちが光の速さで進めないから」はもう生きてはいないであろう家族を宇宙を超えて想い続ける100年の愛が切ないし、「感情の物性」は感情を造形化したモノが爆発的に売れていく中、その理由を探る様はとても興味深いものがあります。

理解できないことがあっても、理解しようとすることはできます。
どこでどの時代を生きようとも、お互いを理解しようとすることを諦めたくない。とあとがきにあるようにそんな作者の優しさが伝わる作品です。

さぁ、宇宙、未来、感覚や概念に思いを馳せてみたくなったならSF(サイエンスフィクション)を読みましょう。
読書の秋ですね~。

今月のおすすめもう一冊

「声をあげます」 チョン・セラン

今月のもう一冊は、チョン・セランの「声をあげます」 。

文明社会の行きづまりを軽やかに描き出し、今を生きる女性たちにエールを贈る、シリアスでポップな8つの物語です。